きっかけ――自分が何をやっているのか、わからなくなった
執行役員として中小企業の経営に参画して数年。ある日ふと、「自分の仕事って何だ?」と思った。肩書きは執行役員。でも実態は、経営会議も出るし、採用面接もするし、契約書も読むし、クライアントのクレーム対応もする。
試しに「自分がやっている(やったことのある)業務」を全部書き出してみた。出てきたのが85個。多すぎる。でもこのリスト自体が、中小企業の「右腕」のリアルだと思う。
全部載せる。これがこの記事の本体だ。
経営・戦略(11個)
- 経営戦略・中期経営計画策定
- 年度予算策定
- MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定
- 社名変更・リブランディング
- 本社移転
- 事業の再設計・構造改革
- 新規事業立ち上げ(海外含む)
- 事業撤退判断・実行
- M&Aソーシング
- IPO準備・成長可能性資料作成
- 料金体系設計(サービスの値付け)
一番重かったのは「事業撤退判断」。 始めるより、やめる方がはるかに難しい。数字的に明らかでも、関わっている人がいる。感情と論理を切り分けて、最終的に「やめましょう」と経営者に進言する。これができるかどうかが、右腕の価値を決めると思っている。
ファイナンス(6個)
- PL/CF/ランウェイ管理
- ファイナンス戦略(デット・エクイティ)
- 原価構造改革
- 事業計画書作成(銀行・投資家向け)
- 資金繰り改善(経営危機時の立て直し)
- 補助金・助成金申請
意外だったのは「資金繰り改善」の泥臭さ。 ファイナンスと聞くと華やかに聞こえるが、実態は「来月の支払いに足りるか」を毎週確認する地味な作業だ。経営危機のときは毎日キャッシュの出入りを追う。数字が読める人と、数字で会社を守れる人は全然違う。
組織・HR(17個)
- 採用戦略・面接
- 評価制度設計・運用
- 組織設計・人員計画
- 人員整理・構造改革
- KPIマネジメント・PM/PMO
- 社内研修・教育プログラム設計
- 1on1・メンター制度
- 退職面談・退職交渉
- 就業規則整備・労務管理
- 社員のメンタルケア・相談対応
- 社内の人間関係トラブル仲裁
- ハラスメント対応
- 目標設定面談(MBO/OKR等)
- 社内報・全社メールの発信
- 社内表彰制度の設計
- 採用媒体の選定・運用、求人票ライティング
- リファラル採用の仕組みづくり・内定者フォロー
最もエネルギーを消耗するのは「退職交渉」。 数字の話は論理で片付くが、人の問題は論理だけでは動かない。相手の人生に影響する決断を伝える側になるのは、何度やっても慣れない。でもこれを避ける右腕は、右腕として機能していない。
経営者サポート(4個)
- 社長への報告・意思決定サポート(壁打ち相手)
- 社長不在時の意思決定代行
- 経営陣間の調整・根回し
- 社内への経営方針の伝達・浸透
この4つは地味だが、右腕の仕事の核心だ。「根回し」は特に過小評価されがちだが、これができないと会議が空中戦になる。 事前に各役員の温度感を確認し、落としどころを設計しておく。会議は決定の場であって、議論の場ではない。
マーケティング・営業・クライアントワーク(22個)
- ECコンサルティング(複数モール対応)
- WEBマーケティング全般(広告・SEO・CRM)
- SNS運用コンサル
- 広告運用・分析
- テレアポ・営業リスト作成
- 商談・プレゼン
- 営業資料・提案書作成
- クライアントリテンション(解約防止)
- セミナー・ウェビナー登壇
- LP制作ディレクション
- コーポレートサイトリニューアル
- プレスリリース作成・配信
- パートナー企業との業務提携
- 競合分析・市場調査
- クライアント向け月次レポート作成
- ホワイトペーパー・事例集作成
- 提案コンペへの参加・資料作成
- クライアント向け勉強会の実施
- 契約更新交渉・条件変更対応
- クライアントのKPI設計支援
- クレーム・トラブル対応(エスカレーション先)
- 大口クライアントのアカウントマネジメント
対外折衝(6個)
- 業界団体・経営者会合への代理出席
- 金融機関との折衝(融資面談・条件交渉)
- 来客対応・会社説明
- 取引先との会食・接待
- 行政・自治体との窓口対応
- 株主・投資家向け説明資料作成
バックオフィス・管理(13個)
- 契約書レビュー・作成、NDA雛形管理
- 個人情報保護方針・利用規約の策定
- 反社チェック
- 与信管理・債権回収
- 社労士・税理士・弁護士との折衝
- コンプライアンス・内部統制整備
- 情報セキュリティ(Pマーク等)
- 経費精算ルールの策定・承認
- 見積書・予実管理・月次報告の取りまとめ
- オフィス環境整備・社内イベント企画
- 業務マニュアル・ナレッジベース整備
- 社内ツール選定・導入
- 会社説明会の企画・登壇、インターンシップ設計
システム・AI(6個)
- 基幹システム切り替え・SFA導入
- 自社サービスの企画・開発ディレクション
- KPI設計・ダッシュボード構築
- AIエージェント開発・運用
- 業務自動化設計
- 会社SNS運用(採用広報含む)
書き出してみて気づいたこと
85個を眺めて、最初に思ったのは「これ、半分くらいは”経営判断”じゃない」ということだ。
見積書作成、契約書レビュー、求人票のライティング、月次レポートの取りまとめ。これらは「右腕の仕事」として日々こなしているが、本質的には**オペレーション(定型業務)**だ。戦略を考える人間が、なぜ見積書を作っているのか。答えは簡単で、中小企業には「他にやる人がいない」からだ。
ここに構造的な問題がある。右腕が定型業務に埋もれると、本来やるべき「考える仕事」に時間が割けない。経営者の壁打ち相手であるべき人間が、経費精算のルールを作っている。これは個人の時間管理の問題ではなく、中小企業の構造的な限界だ。
85個のうち、AIで置き換えられるのはどれか
このリストを前に、自分は分類を始めた。
AIで完全自動化できる(約15個): 競合分析・市場調査、KPIモニタリング、月次レポート作成、ニュース収集・要約、求人票ライティング、議事録作成、プレスリリースの下書き、データ集計・分析、見積書作成、業務マニュアル整備、社内報の作成など
AIアシストで効率化できる(約40個): 経営戦略の壁打ち、事業計画書の下書き、営業資料・提案書作成、契約書レビュー、評価制度の設計案、採用戦略の立案、広告運用の分析・最適化、SEO分析、クライアントレポート、予実管理の集計と可視化など
人間にしかできない(約30個): 事業撤退の意思決定、退職交渉、クレーム対応、経営者への進言、社員のメンタルケア、取引先との会食、金融機関との折衝、ハラスメント対応、組織の空気を読んだ根回し、社長不在時の判断代行など
約65%の業務がAIで自動化または効率化できる。 この発見が、自分がAIによる業務自動化の仕組みを作り始めたきっかけだった。実際にリストの中から自動化できるものを1つずつ仕組みに落としていった結果、今では数十個のスキルがAIエージェントで稼働している。
おわりに
「右腕」の仕事は、外からは見えにくい。華やかな戦略の裏に、地味なオペレーションが大量にある。でも書き出してみると、その地味な部分こそ仕組みで解決できる領域だった。
もしあなたも「自分の仕事が多すぎる」と感じているなら、まず全部書き出してみることを勧める。書き出した瞬間に「これは本当に自分がやるべきか?」という問いが始まる。その問いが、仕組み化の第一歩になる。
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筆者について: コンサル・事業会社を経て中小企業の経営に参画。経営者の右腕として85業務を横断した経験をもとに、AIによる業務自動化の仕組みを構築中。